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一側性難聴とCROSについて知っておきたい4つのこと

オーディオロジストのJane Woodward はElizabeth Stewart博士と共同で、過去10年分の一側性難聴とCROSに関する文献的考察を行いました。

彼らの報告から得られた4つの知見をご紹介します。

最近、突発性難聴で片耳が聞こえにくくなった友人と連絡を取りました。ある日突然彼女は右耳が聞こえなくなり、騒がしいところで会話を聞くのが困難になり、耳鳴りに悩まされました。彼女は左耳の聴力も低下するのではないかと不安を抱いていました。

彼女のことを思うと心が痛みました、そして同時に「彼女の力になれないかしら?」と考えました。幸運にも、私はフォナックで一側性難聴のソリューションであるクロス Pの開発チームに属しており、関心を持っていました。

一側性難聴はどのくらい一般的なのだろうか?彼らが困難に打ち勝つために、なにか役に立てるだろうか?

研究聴覚学者のエリザベス・スチュワート博士と協力して、10年分のCROSと一側性難聴の文献的考察をしました。この考察は私の一側性難聴に対する考え方を変えました。そして私たちが見出した知見のいくつかを共有したいと思います。

 

一側性難聴とCROSについて知っておきたい4つのこと

1.      あなたが思うよりずっと一側性難聴は一般的です

一側性難聴は、一方の耳が正常であるが、もう一方の耳には何かしらの難聴がある状態です*1

  • 米国では新生児のおよそ1000人に1人が出生時に一側性難聴の診断を受けています*2。学齢期までにこの数は増加し、100人のうち約3人の子供が一側性難聴を発症します*3
  • 米国全体の成人における一側性難聴の有病率は2%と推定され 、そのうち5.2%は軽度、1.5%は中等度またはそれ以上の一側性難聴です*4

これはけっして珍しくはありません。あくまで経験談ではありますが、私が地元スイスにある人口14,000人の街にある耳鼻科で働いていたとき、6人の一側性難聴患者をサポートしていました。

 

2. 片方が聞こえているといっても負担が両耳難聴の半分になるわけではありません

それどころではありません。事実、最近のある研究によると、一側性難聴は両側性難聴と比較して騒音下での会話の困難さや耳鳴りの自覚が有意に高い可能性があることが示されました*5

聞こえの課題(音への気づきの低下、騒音下や離れた場所における聞き取りの困難、方向感の喪失)に加えて、一側性難聴は、心の健康を脅かし、QOLの低下、孤独感の増加にも関連しています*6,*7

Carly Sygrove*8 はBritish Academy of Audiology(BAA:英国聴覚学会)において彼女の経験をありのままに美しく要約しています。

「私は聴覚の低下を抱えて生きるという現実的な課題を乗り越えるのに苦労するだけではなく、難聴の感情的な側面-孤立感や聞こえないという悲しみにも押しつぶされそうでした。」

3. CROSシステムは根拠に基づく一側性難聴に特化した技術的解決手段です

CROSおよびBiCROSフィッティングは、片側の耳に補聴効果がない人のための手術が不要なソリューションです。片側の耳には補聴による効果がなく、対側の耳は健聴、または補聴効果がある状態に用いられ、これらは補聴効果の見込めない一側性難聴、または一側聾(SSD)と呼ばれます。

  • CROSシステムは、非良聴耳に装用したマイクロホンが拾った音を良聴耳に装着した補聴器へワイヤレスで送信します。
  • 良聴耳にも難聴がある場合、CROSシステムをBiCROSとして構成することもできます。

数々の研究から、非良聴耳側に会話音、良聴耳側に騒音がある場合の、騒音下のことばの理解の改善を示しました*9-12

さらに、雑音が拡散する環境における音声理解の改善について新たな根拠*13,*14がありました。これはより実環境に近い聴取環境であり、私の友人が具体的に言及した困難の一つです。

コミュニケーションが容易になる、主観的な音質が向上するなど、他にも主観的なメリットがありました*9,*11

 

4. カウンセリングはCROSシステムを最大限に活用する要となります

CROSに多くの利点があるといえども、両耳の聴こえに取って代わることはできません。CROSシステムを最大限に活用するにはカウンセリングが重要です。

カウンセリング時の注意点:

    • 文献によると、両耳聴効果が得られないため、一般的にCROSでは方向感の改善は難しいとされています*14,*15。周囲の安全に配慮が必要な場所(たとえば交通量の多い道路を横断する場合など)では注意を怠らないようにユーザーにアドバイスするのが最善です。
    • CROSは、ノイズが非良聴耳側にある場合は効果が得られません。これは、本来聞こえない側からのノイズが聴こえてしまうためです*1,*10-14。これは大した問題にはなりません。実環境では通常、騒音は一箇所からではなく全方向に存在するためですが、ユーザーには非良聴耳側にノイズが来るのを避けるようにアドバイスするとよいでしょう。うるさい換気扇など、CROSマイクロホン側にノイズがある場合、または車の中にいる時などはCROSをオフにするのが良い場合もあります。

最後に…

一側性難聴は比較的一般的であり、私の友人と同様に、クリニックに訪れる患者自身にとって避けられない大きな課題があります。この文献的考察は、補聴器ではカバーできない一側性難聴を抱える人にとって、証拠に支えられた技術的解決手段と、最適なツールがあることを示しています。

蓄積された豊富な文献と素晴らしい新製品によって、これまでよりもさらに一側性難聴の人々を支える環境が整ってきたと感じました。

共同でレビューを行ったElizabeth Stewart医師と、詳細なクロス Pの検証ガイド(英語)を提供してくれたDavid Crowhenに深謝いたします。多くの方に支持されたこれまでの製品から、充電システムと幅広い接続性を始めとするフォナック パラダイスの機能によってさらなる進化を遂げた、最新のフォナック クロス Pをぜひご覧ください。

一側性難聴とCROSについて、より詳細な情報は、この文献的考察のフルバージョンをご覧ください。CROSと一側性難聴に関する最近のPhonakポッドキャストも配信しています(いずれも英語)。

 

著者:Jane Woodward(Product Audiology Manager at Phonak HQ)

Janeは2005年にフォナック本社に入社しました。Janeはプロダクトオーディオロジーのマネージャーとして、根拠に基づいたインパクトのある製品、機能、トレーニングを提供するように心掛けています。彼女は20年以上にわたるオーディオロジーの経験があり、英国とスイスの大学病院で臨床、聴覚機器、ソフトウェア開発、そしてトレーニングに携わりました。Janeは英国のサウサンプトン大学においてオーディオロジーのMSc(Master of Science)と心理学のBSc(Bachelor of Science)を取得しています。

この記事は、2021年11月23日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

 

参考文献

1.Bagatto, M., DesGeorges, J., King, A., Kitterick, P., Laurnagaray, D., Lewis, D., Roush, P., Sladen, D. P., & Tharpe, A. M. (2019). Consensus practice parameter: audiological assessment and management of unilateral hearing loss in children. International Journal of Audiology. 58 (12), 805-815.

2.Prieve, B., Dalzell, L., Berg, A., Bradley, M., Cacace, A., Campbell, D., DeCristofaro, J., Gravel, J., Greenberg, E., Gross, S., Orlando, M., Pinheiro, J., Regan, J., Spivak, L., and Stevens, F. (2000).The New York State universal newborn hearing screening demonstration project: Outpatient outcome measures. Ear and Hearing, 21 (2), 118-30.

3.Bess, F.H., Dodd-Murphy, J. & Parker, R.A. (1998). Children with minimal sensorineural hearing loss: Prevalence, educational performance, and functional status. Ear and Hearing, 9, 339–354.

4.Golub, J., Lin, F., Lustig, L., & Lalwani, A. (2018). Prevalence of adult unilateral hearing loss and hearing aid use in the United States. The Laryngoscope. 128 (7), 1681-1686.

5.Pierzycki, R., Edmondson-Jones, M., Dawes, P., Munro, K. J., Moore, D. R., & Kitterick, P. T. (2020). Associations Between Hearing Health and Well-Being in Unilateral Hearing Impairment. Ear and Hearing. 42 (3), 520-530.

6.Lucas, L., Roulla, K. & Kitterick, P.D. (2017). The psychological and social consequences of single-sided deafness in adulthood. International Journal of Audiology. 57 (1), 21-30.

7.Wie O.B., Pripp A.H., Tvete O. (2010). Unilateral deafness in adults: effects on communication and social interaction. Ann Otol Rhinol Laryngol. 119 (11), 772-81.

8.Sygrove, C. (2021). Take sudden hearing loss seriously! British Academy of Audiology (BAA) Magazine. Spring 2021, p29.

9.Oeding, K., & Valente, M. (2013). Sentence recognition in noise and perceived benefit of noise reduction on the receiver and transmitter sides of a BiCROS hearing aid. J Am Acad Audiol, 24 (10), 980-991.

10.Choi, J.E., Ma, S.M., Park, H., Cho, Y.S., Hong, S.H., & Moon, I. J. (2019). A comparison between wireless CROS/BiCROS and soft-band BAHA for patients with unilateral hearing loss. PLOS One, 14 (2), 1-17.

11.Fogels, J., Jonsson, R., Sadeghi, A., Flynn, M., & Flynn, T. (2020). Single-Sided Deafness-Outcomes of Three Interventions for Profound Unilateral Sensorineural Hearing Loss: A Randomized Clinical Trial. Otol Neurotol, 41 (6), 736-744.

12.Kuk, F., Seper, E., Lau, C., Crose, B., & Korhonen, P. (2015). Effects of Training on the Use of a Manual Microphone Shutoff on a BiCROS Device. J Am Acad Audiol, 26 (5), 478-493.

13.Dwyer, R. T., Kessler, D., Butera, I. M., & Gifford, R. H. (2019). Contralateral Routing of Signal Yields Significant Speech in Noise Benefit for Unilateral Cochlear Implant Recipients. J Am Acad Audiol, 30 (3), 235-242.

14.Picou, E. M., Davis, H., Lewis, D., & Tharpe, A. M. (2020). Contralateral Routing of Signal Systems Can Improve Speech Recognition and Comprehension in Dynamic Classrooms. J Speech Lang Hear Res, 63 (7), 2468-2482.

15.Snapp H. A., Holt F. D., Liu X., Rajguru S.M. (2017). Comparison of Speech‐in‐Noise and Localization Benefits in Unilateral Hearing Loss Subjects Using Contralateral Routing of Signal Hearing Aids or Bone‐Anchored Implants. Otol Neurotol. 38 (1), 11‐

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