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難聴が職場のウェルビーイングに与える影響とは?【オーディオロジーブログ】

Sarah Granberg博士とJohanna Gustafsson博士は、難聴と勤労生活の関連性についての文献研究を行いました。ここでは過去20年の研究から明らかになったことをご紹介いたします。

「職場でのウェルビーイングは、照明の明るさ・環境音・デスク環境といった物理的環境の質や安全性だけでなく、従業員が自身の業務や人間関係、職場組織についてどう感じるかといった精神的な環境を含むあらゆる側面に関連しています」

―国際労働機関、2020年*1

現代の勤労生活は職場のウェルビーイングにどのような影響を与えているのでしょうか?

現代の勤労生活は、従業員も管理職も労働条件の変化に伴い絶えず複雑化しています。優先順位をつけて仕事をこなし、状況の変化に適応することを求められる一方、休息をしっかり取って自分自身のウェルビーイングを保たなければなりません。

このような高い柔軟性やコミュニケーションスキルへの期待は従業員にとって強いプレッシャーとなります*2。さらに、難聴を抱える従業員は業務に対して柔軟な姿勢を保たなければならない一方、組織に対して個々の聞こえに合わせた業務上の配慮を求めなければならない場合があります。この相反する二つの事由のため、難聴を抱える従業員は他の従業員と比べてより強いストレスに晒されます。

今後デジタル化やギグワークと呼ばれる自由度の高い働き方の普及といった勤労生活のさらなる変化によって、オンライン会議に参加するといったデジタルリテラシーは当然のように求められ、その上でさらなる柔軟性やコミュニケーションスキルへ期待がのしかかると予想されます(同書)。

しかし、これまで物理的、組織的、心理社会的な側面に関する問題はしばしば取り上げられているのに対し、認知的な作業環境に関するトピックはあまり注目されていませんでした。

難聴が職場のウェルビーイングに与える影響は明らかになっているのでしょうか?

シンプルに「いいえ」です。難聴と関連する勤労生活のウェルビーイングについて行ったスコーピングレビュー*3から、過去20年の間、ほとんど調査されていないと結論づけられました。

国際労働機関による職場のウェルビーイングの定義*1をベースとなる概念的枠組みとして、難聴と勤労生活に関する研究が始まりました。

このトピックについて行った研究の結果から、3つのテーマが浮かび上がりました:

  1. 個人的側面(勤労生活における問題の認識、勤労生活と健康を管理するための戦略)
  2. 労働環境(勤労生活の物理的、組織的、社会的条件)
  3. 仕事の組織(役割分担や雇用形態)

難聴と勤労生活に関する研究の多くは、交差的な視点が欠けていると結論づけられました。

「交差的な視点」はなぜ必要なのでしょうか?

勤労生活は性別、年齢、教育レベルによって異なるため、交差的な視点は欠かせません。現代の勤労生活を正しく反映するためには、交差的な側面をこれまで以上に取り上げていく必要があります。

対象となった論文の多くは難聴者の認識を取り上げたものに過ぎず、複雑な勤労生活に対する理論や研究を取り入れる研究がまだできておりません。

これは今後の課題です。なぜならば、難聴者は個人であっても、それは自身が属する集団を構成する一員であり、ターゲットグループが経験する勤労生活における問題を取り上げるからにはこの「集団」の内で起きる事象を考慮する必要があるからです。

ベストを尽くしていますか?まだ出来ることはないですか?

まだまだ改善の余地があるはずです。こういった難聴の捉え方が欠如することは、難聴者の勤労生活のウェルビーイングに影響を与える可能性があります。例えばある文献によれば、ほとんどの成人の難聴者が職業リハビリテーションを受けていないことが分かっています。難聴によって職場で求められるコミュニケーションや認知能力などが影響を受けているならば複雑な勤労生活がより一層複雑化すると考えられるのため、この報告は注目すべきものです。

この問題に対して、私たちは口話法を第一のコミュニケーション手段とする成人の難聴者のために職業リハビリテーションを提供するシステムの構築とこの分野におけるさらなる調査が必要だと考えます。

より詳細な内容を知りたい方は、International Journal of Audiologyに掲載されている私たちの論文をお読みください。

フォナックが提唱する”Well-Hearing is Well-Being”(日本語対訳「良い聞こえから始まる健康でしあわせな毎日」)についてもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。

 

この記事は、2021年12月23日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

著者:Sarah Granberg(エーレブロー大学上級講師・研究員、エーレブロー大学病院聴覚研究センター研究員)

Sarah Granberg博士は、エーレブロー大学&エーレブロー大学病院聴覚研究センターで上級講師および研究員として在籍しています。彼女は、勤労生活における難聴、健康と生活の質、重度の難聴者の聴覚リハビリテーション、重度の二重感覚喪失の高齢者、国際機能・障害・健康分類(ICF)などの研究をしています。また、文献検討方法論についての教育および研究経験があります。

参考文献
  1. International Labour Organization (2020). Workplace well-being. Retrieved from https://www.ilo.org/safework/areasofwork/workplace-health-promotion-and-well-being/WCMS_118396/lang–en/index.htm, accessed November 8, 2021.
  2. Swedish Agency for Work Environment Expertise (2020). Framtidens arbetsmiljö – trender, digitalisering och anställningsformer. [The future work environment – trends, digitalization and forms of employment]. Kunskapssammanställning 2020:3. [Review of knowledge 2020:3]. Stockholm: Myndigheten för arbetsmiljökunskap
  3. Sarah Granberg & Johanna Gustafsson (2021): Key findings about hearing loss in the working-life: a scoping review from a well-being perspective, International Journal of Audiology, DOI: 10.1080/14992027.2021.1881628
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