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おいしい食事は良質な食材から…補聴器だってそう!【オーディオロジーブログ】

フォナックが75周年を迎える今年、オーディオロジストのAnna Bigginsが考えるフォナック補聴器の「上質な食材」、一番のお気に入りの機能を振り返ります。

以前フォナックに在籍していた、マーケティング副社長だったある人がチームの一人ひとりに”Never mind the sizzle… Where’s the sausage?(訳者注:「シズル感に惑わされるな…ソーセージはどこにもない」)”という本を贈りました。

David Taylorによって書かれたこの本は、ブランドメッセージはまやかしではなく実体に基づいているべきであること、そしてそれを保証することの重要性を面白く述べた警告のような物語です。

フォナックが75周年を迎える中、最近この本が再び頭に浮かびました。私たちはどんな時も傷んだソーセージをお出しするわけにはいきません。あなたがお客様に饗するソーセージは優れた品質であるべきです。(ウソだと思うなら、ミシュランの星付きレストランのシェフであるMichel Roux Jr.に尋ねてみてください。常々、料理にはいつも手に入るかぎり最高の食材だけを使うべきだと人々に熱く語っています。)

シズル感、ソーセージ、食材…これらが補聴器と何の関係があるのでしょうか?

私にとって必要な機能が入っている、自分にぴったりの補聴器を自由に作れるとしたら、どんな機能を選ぼうかしら?私はそんなことを考えていました。

聞こえを改善するフォナック補聴器の機能は多岐に渡るため、その選択は簡単ではありません。しかし、その中で最も大事なものはサウンドリカバーだと断言できます。なぜなら、サウンドリカバーは私がフォナックに勤める前の私のプロとしてのキャリアに大きな影響を与えていたからです。

なぜサウンドリカバーが最もお気に入りのフォナックの機能なのか

現在の仕事に就く前、私はイギリスで臨床オーディオロジストとして数年間働いていました。その間に数多くの補聴器のフィッティングに携わりました。

2007年にフォナックUKから高度・重度難聴向けデジタル補聴器のパンフレットが届き、サウンドリカバーという新機能についての説明を受けました。

サウンドリカバーは、フォナック製補聴器に搭載された周波数変換信号処理です。この機能の目的は、これまでの技術で聞き取ることのできなかった高い周波数の音を聞き取りが可能な周波数に変換することです。

簡単に言えば、サウンドリカバーはその人が聞き取れないであろう周波数の音を聞き取り可能な範囲に復元することができます。

耳鼻科の専門医に、パンフレットに印刷されたピアノの鍵盤の例えを用いて周波数変換の仕組みを説明したことをはっきりと覚えています。

左:ピアノの鍵盤の絵を用いたサウンドリカバーの仕組みの説明、設定した範囲の高周波音を可聴域に圧縮
右:周波数変換によって高周波音が聞こえるようになることを示す

私たちはこの機能を理解し、私はさっそくこの補聴器を取り寄せ試してみることにしました。

結果は満足のいくものでした。

臨床における私のサウンドリカバー経験

私の勤めていたクリニックでの事例です。大人、子どもを問わず高域が聞き取りにくい人がサウンドリカバーを用いることによって、自動車のバックソナーのような今まで聞こえなかった高い音が聞こえるようになったと報告しました。語音明瞭度のテストを行ったところ、聞き取りの向上も見られました。

その理由を説明しましょう。

高域に大きな聴力低下があり補聴に必要な利得を確保できない場合、下記に挙げた事柄が困難になる可能性があります。

  • 小さな音である/f/、/s/、/sh/ といった子音の認識
  • 鳥の鳴き声、アラーム、一部の楽器の音など、高音の環境音の聞き取りと識別
  • 高周波を含む語音を正しく発話すること(特に小児)
  • 話しことばの質の維持(特に成人)

サウンドリカバーは、補聴効果の期待できない周波数範囲の入力音を、補聴可能な周波数の範囲内に収まるよう圧縮します。

この新しい技術は当時、世界が一変するかのような補聴器技術だと思いました。

その後フォナックに入社し、サウンドリカバーのより詳細な機能についてもっと学ぶ機会を得ました。 私は同僚と一緒に、サウンドリカバーがどんな機能でどんなメリットがあるか、これまでにない斬新な方法で説明する方法を考え出しました。

物議を醸したことも

オーディオロジーの世界で、サウンドリカバーがちょっとした物議を醸したこともありました。基本的に周波数圧縮変換は入力信号を歪める増幅技術であり、一部のオーディオロジストはこの歪んだ音の利点に疑問を呈しました。

聴力低下の程度にもよりますが、特に高音障害のある難聴において、これまでの研究からこの変換された音が有益である可能性を示唆する研究結果によって、もともと懐疑的だった人でも、徐々にではありますが確実に新たな視点を持ってもらえることができました1-2。 例えばある研究から、サウンドリカバーは高域の無声子音に対する知覚と認識を改善することが示されました

サウンドリカバーが音声の知覚にどのように役立つか

周波数変換によって、高域にある重要なスピーチキュー(音声の手がかり)は変化しますが聞こえるようになります。

訓練によって、高い周波数の音が聞こえにくい場合でも、このような変化したスピーチキューを元の高音域の音素として認識できるようになります。スピーチキューが認識できるようになれば、再び/s/音などの音声理解に必要な音があると分かるようになります。

ここにAndrea Bohnertの言葉を引用します。

「サウンドリカバーによって可聴域が広がり、より多くの情報を得られるようになります。小児フィッティングにおいて聞こえに制限をかけることは問題ですが、さらに多くの音情報を得られるようにすることは問題ありません。サウンドリカバーのメリットはこれに尽きます。」

それでは、これでサウンドリカバーへのオマージュはおしまいです。最後に、サウンドリカバーが補聴器にとって重要かつ不可欠な要素であると私が信じている理由をお話しします。

それは…サウンドリカバーによって、ソーセージを焼く音が美味しそうに聞こえるのです!

サウンドリカバー2を特集したナイーダ パラダイスに関する記事(英語)もぜひご覧ください。

* Andrea Bohnert : Senior ATA-F in Audiology and Pedaudiology at the University Medical School, Clinic for ENT and Communication Disorders.

参考文献
  • Fulton, B. & Ebbing, S. (2016). SoundRecover2 More audibility of high-frequency sounds for adults with severe to profound hearing loss. Phonak Field Study News. https://www.phonakpro.comより2022年7月19日閲覧。
  • Wolfe, J. (2016). SoundRecover2 for Pediatrics: Audibility where it matters most. Phonak Field Study News. https://www.phonakpro.comより2022年7月19日閲覧。

この記事は、2022年8月9日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

著者: Anna Biggins (フォナック本社 Senior Audiology Manager)

Annaは現在、Lyric(日本未導入)を中心とした耳あな型補聴器チームのグローバル臨床開発およびトレーニングの責任者を務めています。2008年8月からスイスのフォナック本社で働いています。彼女は25年もの間オーディオロジーと補聴器の分野で働いており、オーディオロジーのすべてに情熱を注いでいます。日本でも、「JAPAN補聴器フォーラム2015」のプロフェッショナルセミナーへ登壇した経験があります。

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