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「難聴」と「退屈感」の関係性 – 最新の調査から【オーディオロジーブログ】

フォナックのシニア リサーチ オーディオロジストであるDr. Gurjit Singhと認知神経科学者であるDr. Mark Fenske(カナダのゲルフ大学 心理学教授)が、「難聴」と「退屈感」の関係性に関する調査を行いました。

補聴器を購入するかどうかを推し量る際の重要なポイントの一つに、難聴による影響の大きさが挙げられます。 これは一般的に、オージオグラムから得られた難聴の程度を元に推測します。

しかし、はたしてこのような判断手法は正しいのでしょうか? 興味深いことに、難聴の程度が同レベルの二人であっても、抱える悩みは同じではない場合も多々あります。

例えば、退屈を感じやすい人もいれば、退屈をあまり感じない人もいるように、人によって当然「退屈」の感じ方はまちまちです。退屈をあまり感じないタイプの人であれば、ある程度難聴が進んでもそれほど大きな悩みにならないかもしれません。一方、退屈を感じやすいタイプの人が難聴によって急に外の世界からの刺激が少なくなったとしたらと、難聴による悩みは退屈をあまり感じないタイプの人よりも大きい可能性があります。

これまで、聴覚学における退屈傾向という考え方に基づいて行われた研究はほとんどなされておらず、そのため先ほどの問いは我々研究者にとって非常にユニークかつ興味深く感じられました。私の知る限り、難聴と認知/疲労の関係性を調べる先行研究はありますが、「退屈」の面から考えた研究はまだ行われていません。

調査結果:「難聴」と「退屈感」の相関について

Dr. Gurjit SinghとDr. Mark Fenskeは「難聴」と「退屈感」の関係性について調査を実施しました。Dr. Fenskeは認知神経科学者であり、認知とモチベーションを研究している専門家でもあります。また、この研究には優秀な学生チームも大きく関わってくれました。

※Carolyn Crawford(大学院生・プロジェクトリーダー)を筆頭にKalisha Ramlackhan、Hannah Brock、Ariella Golden、Sibley Hutchinson、Brooke Partyの計6名で構成

この調査には、約2000名の軽度難聴者が参加しました。参加者は全員、初めて聴覚クリニックに来院した50歳以上の人です。この調査では、聴力レベルだけでなく退屈傾向-退屈の感じやすさについても調査しました。

そしてその結果、同レベルの軽度難聴者どうしであっても、退屈傾向にはばらつきが存在することが示されました。

軽度難聴を抱えている参加者の中には、あまり退屈を感じない人もいれば、非常に感じる人もいました。この調査では、退屈傾向から、難聴がその人に与える主観的影響の違いを予測できることが明らかになりました。

また、退屈感は注意力と強い関係性を持っています。その理由は、人は皆自分が満足のいく行動を取りたいと思うからです。つまり、どのような活動について述べるときでも「注意力」が関わっています。

本調査の臨床的な意義

この研究は、退屈傾向や注意力維持の難しさを、難聴が個人に与える影響を推測する際の主観的要因として見なすことができる可能性を示しました。そしてまたこのような認知に関連する主観的要因は、難聴への対処が有益であるかどうか、その人自身が判断することを促してくれる可能性があります。

この調査についてより詳細な内容を知りたい方は、英文記事 Subjective Impact of Age-Related Hearing Loss Is Worse for Those Who Routinely Experience Boredom and Failures of Attention をお読みください。

フォナックが提唱する”Well-Hearing is Well-Being”(日本語対訳「ゆたかな聞こえ、しあわせな暮らし」)についてもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。


この記事は、2023年2月14日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

著者:Gurjit Singh(フォナック カナダのシニア リサーチ オーディオロジスト)

Dr. GurjitはフォナックAGのシニア リサーチ オーディオロジストであり、ライアソン大学とトロント大学の非常勤教授でもあります。彼は聴覚リハビリテーションの成功に寄与する要因と、聴覚がどのように感情的な反応を呼び起こすかに関する研究に関心を寄せています。

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