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World Hearing Day のパイロット プログラム – 「Listen for Life」【オーディオロジーブログ】

英国で実施したWHO(世界保健機関)の”Make Listening Safe“キャンペーンとの提携は、聴覚へのリスクに対する意識を高めることで、音楽業界の人々の健康を守ることを目的としています。英国のオーディオロジスト、Rob Shepheardがその取り組みについてご紹介します。

3月3日は「耳の日」ですが、日本だけでなく海外でもWorld Hearing Day(国際耳の日)として様々な活動が行われます。NTIA(英国ナイトタイム産業協会)は、2023 年のWorld Hearing Dayに合わせて、WHOが推し進める耳と聞こえのケアに対する意識の向上と「ホールやイベントでの聴覚保護に関する世界基準」の啓蒙を掲げた英国内の”Make Listening Safe”キャンペーンと提携しました。

NTIAはナイトライフと音楽産業の支援・保護を目的とした取り組みを行う、英国の非営利貿易団体です。このWorld Hearing Dayの取り組みは、DJからドアマンまで、音楽業界のあらゆる人の聞こえを保護することを目的としています。彼らが愛する音楽を安全に楽しみ、音楽業界でいつまでも働くことができるよう、聞こえを阻害する要因について彼らの意識を高め、実現可能な対策を協力し合いながら立てています。

予防が重要な理由

強大音に曝され続けると私たちの健康の多くの側面に取り返しのつかない影響を及ぼすことについて、まだ十分に理解されているとは言えません。たとえばミュージシャンや、コンサート会場で働いたり楽しんだりしている人は、静かな環境で働いている人よりも聴覚障害や耳鳴りが起こる可能性がはるかに高くなります1。音楽業界にかかわるあらゆる人の健康を維持するため、音楽業界がこういった積極的な取り組みを行うことをNTIA のオーディオロジストとして非常に嬉しく思います。

説得力のある統計

WHOによれば、11億人の若者(12~35歳)がライブなど音楽を伴うレクリエーションを楽しむ際の危険な聴取環境により、永続的な難聴のリスクに曝されています2

英国の難聴委員会は、難聴が自国の経済に及ぼす年間コストは248億ポンドに達し、2031年までには386億ポンドまで増加する可能性があると試算しました

難聴は認知症の危険因子のうち、日常の中で最も修正可能とされる要因の一つです。発症のリスクは軽度難聴で2倍、中等度難聴で3倍、そして重度難聴では認知症の発症リスクが5倍に増加すると言われています

バーの店員、キャスト、警備員、そして音楽業界に携わる全従業員の聴覚を保護する点において、音楽業界は大きな役割を果たしていると私たちは信じています。WHOによって作成されたガイドラインに沿って、私たちは音楽業界と協力して聴覚ケアに関心を持つ人々に対処法と解決策を提供するためのキャンペーンを実施しています。また、聴覚ケアの意義と方法を幅広く伝えるための講習会や認定プロセスに資金提供も行っています。

NTIA は、自分の健康へのダメージを完全に回避しながら愛する音楽にいつまでも触れて楽しみ続けられるように、音楽に従事する或いは音楽を楽しむすべての人々とつながり、情報提供を行うという、計り知れないスケールの計画を立ち上げています。

私たちは今後、このように業界関係者の健康を守ることに強い関心をお持ちの組織とコラボレーションすることを心待ちにしています。

この記事を気に入っていただけた方は、ぜひRob Shepheardによる過去の記事もお読みください。Protect it or lose it – Now is the time for change!(英語)

NTIA の活動については、こちらのwebサイトをご覧ください。

“Make Listening Safe”の取り組みの詳細については、WHOのWebサイトをご覧ください。


この記事は、2023年3月2日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

参考文献:
  1. The University of Manchester (2019). Musicians at serious risk of Tinnitus, researchers show. Retrieved from Musicians at serious risk of Tinnitus, researchers show (manchester.ac.uk).
  2. World Health Organization (2022). WHO Global standard for safe listening venues and events. Retrieved from WHO Global standard for safe listening venues & events.pdf.
  3. International Longevity Centre-UK (2014). Commission on Hearing Loss: Final Report. Retrieved from ID564 Commission on Hearing Loss- Final Report.indd (ilcuk.org.uk).
  4. Livingston, G., Huntley, J., Sommerlad, A., Ames, D., Ballard, C., Banerjee, S., … Mukadam, N. (2020). Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet, 396:413-46.

著者:Rob Shepheard(英国のコンサルタントオーディオロジスト)

オーディオロジストとして臨床業務に携わる傍ら、1980 年代から工業からモータースポーツに至るまでさまざまな環境における騒音性難聴の予防に取り組んできました。過去にはFiA(国際自動車連盟)からF1レースにおける騒音暴露と聴覚の影響についての調査を委嘱されています。WHOの ”Make Listening Safe” ワーキンググループの一員であり、聴覚保護に関する規制の標準化を担う欧州 CEN 技術委員会に加わる英国の専門家であり、そして王立音楽大学とBAPAM(British Association For Performing Arts Medicine; 英国舞台芸術医学協会)のオーディオロジストでもあります。

 

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