高齢者の補聴器適応における聴覚情報処理と認知機能の変化への配慮
高齢者が補聴器を効果的に活用するためには、フィッティングに際し、加齢に伴う聴覚情報処理および認知機能の変化を考慮することが重要です。
本稿では、聴取努力を軽減し日常生活におけるコミュニケーションを支援するための実践的なフィッティング方式と、それを支えるフォナックの技術について解説します。
世界的に高齢化が進むなか聴覚と認知機能の両面に変化を抱える高齢者を適切に支援する必要性はますます高まっています。
Windleら(2023)のレビュー論文では、こうした二重の変化を反映した補聴器フィッティングの重要性が強調され、臨床においてエビデンスに基づきポジティブな成果を導く方式が示されています。
加齢が聴覚情報処理と認知機能に与える影響
加齢性難聴は広く知られていますが、実際の会話理解には、聴覚だけでなく加齢に伴う認知機能の緩やかな低下も関与します。
こうした変化は、とくに雑音の多い環境や複雑な聞き取り場面で顕著になります。
- 神経接続の減少
- 処理速度の低下
- ワーキングメモリの制限
これらが会話理解の困難さや聴取努力の増大に寄与します。
さらに、時間的処理能力(音声のタイミング手がかりを処理する能力)の低下は、雑音下で必要な音声情報を抽出する力を損ないます。
これらの聴覚的課題は、認知的負荷(聴覚入力を処理し理解するために必要な精神的努力)を高め、注意の持続や不要情報の抑制、会話中の情報保持をより困難にします。
聴取努力と高齢者への影響
「聴取努力」とは、音声を理解するために必要な認知的リソースを指します。
加齢に伴い、とくに難聴を有する高齢者では、この負担が増大しやすくなります。
その結果、疲労感やフラストレーションを引き起こし、最終的には補聴器の使用時間や装用意欲の低下につながる可能性があります。
聴取努力は、補聴器装用成果および有効性を左右する主要な要因であり、臨床において軽減すべき重要なターゲットといえます。
エビデンスに基づくフィッティングの方針
Windleら(2023)のレビューでは、聴取努力の軽減、および認知負荷や歪みの抑制を目的とした補聴器フィッティングの方針が提案されています。臨床で実践可能な主なポイントは以下の通りです。
- 音声の包絡線とバイノーラルキュー(両耳手掛かり)の保持
スローコンプレッションにより音声のリズムや明瞭さが維持され、会話理解を支援します。バイノーラルキューを保持することで方向感覚や雑音下での聞き取りが改善します。特に高齢者では、音声の手がかりを歪める設定を避けることが重要です。 - 指向性マイクロホンとワイヤレス補聴援助システムの活用
これらの技術はSN比を改善し、騒音環境での会話理解を容易にします。 - 中程度のノイズリダクションの適用
中程度のノイズリダクションは一般的に装用者に好まれ、聴取の快適性を向上させつつ、音声明瞭度を損なわないことが示されています。 - 実耳測定(REM)と利用者フィードバックの活用
REMは補聴器出力が処方利得に適合しているかを確認するために有効です。さらに、クライアントからのフィードバックを収集することで、快適性や会話ニーズへの適合性を評価できます。
これらの実践を支えるフォナックの技術
フォナックの補聴器(インフィニオおよびルミティプラットフォーム搭載機種)には、上記のアプローチを支援する機能が組み込まれています。
- アダプティブ・フォナック・デジタル(APD)3.0:ファストコンプレッションとスローコンプレッションを組み合わせ、音声の手がかりを保持しつつ快適性を維持。
- ステレオズーム2.0:最大で3dBのSN比改善、さらに騒音環境では追加で2.5dBの改善。
- スピーチエンハンサー:静かな環境での小声や距離のある音声の理解を改善。
- 全方位からのことばの明瞭性:中等度~高度難聴の装用者は、使用しない場合と比べて2倍、あらゆる方向からのことばを理解しやすくなる。
- ロジャー :話者の声を直接補聴器に届け、グループ場面や距離のある会話、雑音下での理解を改善。
まとめ
臨床におけるベストプラクティスと先進的な補聴技術を組み合わせることで、臨床家は高齢者の特有のニーズによりよく応えることができます。
この包括的なアプローチは、聴取努力を軽減し、補聴器の満足度を高め、日常生活におけるより意味のあるコミュニケーションを支える可能性があります。