外出先でも弾むおしゃべり！～モーションセンサーヒアリング～

2022年2月24日

フォナックパラダイスシリーズ補聴器のモーションセンサーヒアリングは、周囲の状況把握を阻害することなく、騒音下における歩行中の会話をサポートします。

補聴器ユーザーの多くは、相手の話を聞くときに視覚的な手がかりを頼りにしています。聞き取り向上に関するガイダンスの多くは、特に騒がしい場所での会話において、話し手と向き合うことが重要だと述べています。このような状況では、補聴器の信号処理は話し手の方向に最適な指向性ビームを形成します。これにより、ことばの理解を改善すべく信号対雑音比（SN比）が向上します。

お互いが向かい合うことができない状況では、会話の理解が難しくなります。このような状況（たとえば、車の運転中に助手席にいる人の話を聞く時など）を改善するために、フォナックの補聴器には両耳間音声通信を用いて左右方向からの音声を聞き取りやすくする特別な機能（「全方向のことば」プログラム）があります。この機能では、ことばの理解が容易になる反面、音源定位が失われるため周囲の環境が把握しづらくなります。歩行中の会話では、補聴器装着者は、周囲の環境を意識しながら会話を理解する必要があり、近づいてくる車や小犬のような動く障害物に気づかなかったり、距離や方向を正しく把握できなかったりすると、危険な状況に陥る可能性があります。歩行中の会話といった特殊な問題は、これまで長い間見過ごされていましたが、フォナックパラダイスに搭載されているモーションセンサーヒアリングを使用することで解決できます。

モーションセンサーヒアリングとはどのような仕組みですか？

フォナックパラダイスシリーズ補聴器の充電タイプに搭載された新しいモーションセンサーは、補聴器装用者が歩いているかどうかを検出します。騒がしい環境で歩きながら会話している場合に、モーションセンサーヒアリングがオンになります。前方からの会話を改善するダイナミックノイズキャンセルと指向性マイクロホンはオフになり、マイクロホンモードはリアルイヤーサウンドに切り替わります。リアルイヤーサウンドはヒトの耳が持つ自然な指向性を模倣し、あらゆる方向からの音を拾います。このマイクロホンモードは、横方向からの会話に追随できるだけでなく、音源定位も保たれます。モーションセンサーヒアリングは、オートセンス OS 4.0の「騒音下でのことば」と「非常に騒がしい中でのことば」プログラムの一部です。

日常生活において、モーションセンサーヒアリングでの聞こえをどう感じるのでしょうか？

高齢の補聴器装着者22人を被験者とした最近の研究で、モーションセンサーヒアリングは、実環境で歩いているときの音声理解と音源定位を向上させることが示されました^*1。被験者は、モーションセンサーヒアリングが働いているときに音源定位が向上したと報告しました。またある参加者は、モーションセンサーヒアリングがオフになっていると、後ろからのスピーチが聞こえにくくなると述べました。これらの利点は、中等度から高度の難聴の人々を対象とした研究における評価ですが、モーションセンサーヒアリングの効果が特定のレベルの難聴でしか享受できないことを示唆する指標はありません。

モーションセンサーヒアリングを使用すると、装用者は頻繁に首を振ることなく、横方向からの話し手の声をより簡単に聞くことができます。彼らは自分の進行方向を向き、よそ見をすることなくより安全に歩くことができます。また、後ろから近づく足音や、道路脇の木の枝に止まる鳥のさえずりなど、環境音が聞こえやすくなります。

モーションセンサーヒアリングは、自転車に乗っていても働きますか？

フォナックパラダイスシリーズ補聴器のモーションセンサーは、装用者が歩いている状態を検出し、歩くときに起きる衝撃に反応するように設計されています。陸上、空、海を問わずその他の乗り物では検出されず、モーションセンサーヒアリングが働くことはありません。

モーションセンサーの精度は、位置と歩行速度に依存します^*2。このモーションセンサーは「ゆっくり」「普通」「速い」の３つの歩行ペースにおける精度が評価され、検討されたすべての動作において高い検出の信頼性が実証されました^*3。補聴器ユーザーがとてもゆっくり歩く場合、例えば展覧会で展示物を見ながら歩くような場合ではセンサーは歩いていると認識しない可能性はあります。ただし、そのようにゆっくり歩く場合はしばしば会話の相手と向き合う傾向があるため、これはまったく問題になりません。おそらくそのような状況での聞き取りニーズには、指向性マイクロホンを用いる従来の信号処理がマッチします。

モーションセンサーヒアリングの微調整は？

フォナックパラダイスシリーズ補聴器を両耳で新規フィティングすると、モーションセンサーヒアリングは初期設定でオンになり、オートセンス OS 4.0の「プログラムオプション」タブで調整できます。

モーションセンサーヒアリングには、歩行が検出されたときの指向性の強さを3段階で設定できます。「狭い」「広い」、そして「全開」です。装用者が周囲の状況をできるだけ把握したい場合は「全開」設定が適しています。会話しながら歩くときに騒音が煩わしいと感じる装用者には「狭い」または「広い」設定が適しています。

モーションセンサーヒアリングを試してみよう！

モーションセンサーヒアリングの微調整が終われば、周囲の環境音に注意しながら、横からの話し手に容易に耳を傾けることができるはずです。そして歩きながらの会話と周囲の状況が把握しやすくなります。

私の夫と散歩中に初めてこの機能を試したとき、とてもびっくりしました。夫と話しているときにちゃんと犬が後ろをついてきているかどうかを確認するために振り返る必要がなかったのです。彼が小さな足で歩くたびに聞こえる足音は、私たちとの散歩を楽しんでいるよ、と伝えているようでした。

モーションセンサーヒアリングの効果について、インフォグラフィックス（日本語）をご用意しています。さらに詳細な情報は、実際の研究における音声理解と音源定位の評価手順を記したフィールドスタディニュース（英語）もご覧ください。

この記事は、2020年11月3日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

著者：Solveig Christina Voss（Clinical Audiology Manager at Sonova Canada）

Solveigは、2011年に補聴器音響技師のトレーニングを修了しました。2014年まで、ドイツのリューベック応用科学大学で補聴器音響学を学びました。2014年からスイス、中国、カナダにあるソノヴァのR&D部門で働いています。

参考文献

Voss, S., Pichora-Fuller, M. K., Ishida, I., Pereira, A. E., Seiter, J., ElGuindi, N., Kuehnel, V., & Qian, J. (2020b). Evaluating the benefit of hearing aids with motion-based beamformer steering in a real-world setup. Preprint. https://doi.org/10.31219/osf.io/5xdpj (Paper submitted to the International Journal of Audiology).
Shcherbina, A., Mikael Mattsson, C., Waggott, D., Salisbury, H., Christle, J. W., Hastie, T., Wheeler, M. T., & Ashley, E. A. (2017). Accuracy in wrist-worn, sensor-based measurements of heart rate and energy expenditure in a diverse cohort. Journal of Personalized Medicine, 7(2), 1–12.
Voss, S. C., Pichora-Fuller, K., Pereira, A., Seiter, J., ElGuindi, N., & Qian, J. (2020a). Evaluating the accuracy of motion detection using a behind-the-ear sensor. The Annual Scientific and Technology Conference of the American Auditory Society.