一日の終わりに疲れや倦怠感を感じてしまう? ー その悩みは補聴器で解消できるかも【オーディオロジーブログ】
フォナックは聴覚疲労と聴取努力の関係について調査しました。その結果によると、補聴器を一日中装用することで疲労レベルが低下され、音への反応出来る時間が長くなることが示唆されました。
私たちのウェルビーイングはコミュニケーションを円滑で容易に行えることや、一日を通してあらゆる活動を維持するエネルギーがあることなど、日々の活動に十分に取り組む能力と直接関係しています1。
難聴を放っておくと、聞き取り能力以外に多くの側面に影響を及ぼすことは周知の事実です。聞き取りに努力を強いる事は、聴覚以外の活動に使用できるエネルギーが少なくなることを意味します。それによって疲れや倦怠感が引き起され、生活の質に悪影響を及ぼす可能性があります2。
「疲労」を測定することが難しい
疲労は様々な要素で構成されています。そのため当然、疲労の感じ方は人によって異なる場合があります。疲労を測定/定義することが難しいものの、難聴が疲労に及ぼす影響や補聴器の使用による疲労の軽減を解明するために、いくつかの研究では以下のような聴取努力や疲労に関する間接的な測定方法が開発されました。
- 自己報告などの主観的測定法
- 反応時間、デュアルタスクパラダイムのパフォーマンス、EEG(脳波電位測定)、コルチゾール測定、瞳孔測定などの客観的測定法
先行研究では、難聴による精神的な負担や疲労について補聴器使用群と非使用群の比較が行われました。その結果、補聴器非使用群の方の精神的な負担や疲労が大きいことが明らかになりました3-5。補聴器の使用が聴覚疲労に対して有益な影響をもたらすことが示されましたが、使用されたテストのパラダイムは難聴者が経験する日常的な聴取状況を正確に再現したものではなかったです。
そこで、フォナックの研究チームは日常生活における聴取状況をより正確に再現したパラダイムを用いて、聴取努力と聴覚疲労の関係性について調査しました。
フォナック研究チームが実施した調査方法
この調査では、難聴を抱えている20名の参加者が「Time-Compressed-Acoustic-Day(以下、TCAD)」と呼ばれる試験を受けました。TCADは5つの異なる音響シナリオと4つの異なる聴取テストのパラダイムで構成されています。
TCADは難聴者が日常生活で経験する困難な聴取状況を模倣した一連の試験があり、生態学的に有効なテストシーケンスとなります。参加者は計2回、それぞれ補聴器を使用した場合と使用しない場合でTCADを受けました。TCADが実施されている際、参加者は主観的・客観的測定で聴取努力(集中力を通じて測定)と聴覚疲労に関する評価を行いました。
TCADの「1日」の異なる段階・異なる聴取タスクにおいて様々な測定が行われました。距離が離れた場所での聞き取りをサポートするツールの有用性を評価するために、一部のテスト環境ではテレビコネクターを使用しました。
フォナック研究チームが得た結果
両群(補聴器使用群と非使用群)とも、一日を通して集中力と疲労のスコアが上昇しました。しかし、一日の終わりに集中力と疲労に関する評価は、補聴器使用群の方が有意に低いという結果が示されました。さらに、反応時間に関する評価では、補聴器とテレビコネクターを使用してテレビから信号をストリーミングした場合、非使用群よりも補聴器使用群の方の反応が速く、より正確であることがわかりました。
また、補聴器非使用群はより強く疲労を感じ取ったという結果もありました。特に子どもに関する先行研究によると、補聴援助システム ロジャーを使用することで距離が離れた場所での聞こえのニーズを満たし、聴取努力を軽減することが可能であることが示されています6,7。これと同様に、ロジャーは成人の聞こえにもサポートを提供することができると考えられます(困難な聞き取り環境におけるSN比の改善 ― ロジャーの有用性(日本語記事)についてはこちらをご覧ください)。
前述の通り、補聴器やロジャーなどのテクノロジーを使用することが、難聴に関する疲労を軽減する助けになります。詳しくはこちらのフィールドスタディー ニュース(英語)からご覧いただけます。
まとめ
- 補聴器は聴取努力と疲労を軽減することができます。これは全体的なウェルビーイングに重要な影響を与えます。
- 距離が離れた場所でのニーズに対処することは重要です。特に騒音や距離のある困難な聞き取り環境においては認知的負荷が減少され、有益な影響が与えられます。
- 補聴器の使用による聴取努力と疲労の軽減は、聞き取りの改善とウェルビーイングの向上に繋がる大きな目標の一部です。
- 将来的に、聴取努力と疲労の測定は聞き取り能力の向上と繋がるだけでなく、そのほか様々な利点があることが考えられます。
この記事は、2023年6月20日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。
著者:Charlotte Gordon (フォナック NZ オーディオロジスト)
Charlotteは現在、ニュージーランドにあるEisdell Moore Centreという機関でアルツハイマー病の中枢聴覚系における病理学的なマーカーを研究しています。また、彼女は昨年に公衆衛生学のポストグラデュエートディプロマを修了しました。彼女はこの知識を活かして聴覚医療への向上に貢献したいと考えています。
参考資料
-
Whicker, J.J., Ong, C. W., Muñoz, K., & Twohig, M.P. (2020). The relationship between psychological processes and indices of well-being among adults with hearing loss. American Journal of Audiology. 29(4): 728–737.
-
Kramer, S. E., Kapteyn, T. S., Houtgast, T. (2006). Occupational performance: Comparing normally-hearing and hearing-impaired employees using the Amsterdam Checklist for Hearing and Work. Int J Audiol, 45, 503–512.
-
DeLuca, J. (2005). Fatigue, cognition, and mental effort. Fatigue as a window to the brain, 37.
-
Holman, J.A., Drummond, A., & Naylor, G. (2021). Hearing aids reduce daily-life fatigue and increase social activity: a longitudinal study. Trends in Hearing, 25.
-
Hornsby, B.W.Y. (2013). The effects of hearing aid use on listening effort and mental fatigue associated with sustained speech processing demands. Ear and Hearing 34(5): 523-534.
-
Davis, H., et al. (2021). Listening-related fatigue in children with hearing loss: Perspectives of children, parents, and school professionals. American Journal of Audiology 30.4: 929-940.
-
Gabova, K. et al. (2022). Parents’ experiences of remote microphone systems for children with hearing loss. Disability and rehabilitation. Assistive technology, 1-10.
● ロジャーについて、詳しくは フォナック公式ホームページ をご覧ください。
● フォナックの製品開発に取り入れられている考え方「Well-Hearing is Well-Being」(ゆたかな聞こえ、しあわせな暮らし)については こちら をご覧ください。