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難聴と社会的孤立 – 社会的弱者が心に抱える負担 -後編-

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難聴と社会的孤立 – 社会的弱者が心に抱える負担 -後編-

なぜ聴覚医療を必要とする人が非常に少ないのですか?

聴覚医療にアクセスする際の障壁は多岐にわたる可能性が高く、根強い社会的なスティグマ例えば難聴や補聴器装用に劣等感を抱くなど、他者からのネガティブな表象烙印、聴覚医療を平等に受けられない実情、聴覚医療や難聴を放置するリスクに対する意識の低さなどが含まれます。

また、教育や医療(健康の社会的決定要因)を受けるにあたり、難聴であること自体がその障壁となり、悪循環を引き起こす可能性があることも知られています[9]

このマオリの健康モデルは、幸福がいくつもの局面から成り立っていることを想起させてくれます。そして、障壁を克服し不平等を是正するためには、異なる人々のニーズを満たすための医療システムを構築する必要があることも忘れてはなりません。

これはニュージーランドの一例ではありますが、私たちの存在の基本的な部分がつながりに根ざしていることをすべての聴覚ケアに関わる人に改めて認識させます。聴覚医療と技術は、難聴を放置するリスクと悪影響の軽減のために、すべての人が公平に享受できるべきです。

脆弱なコミュニティのリスクを軽減する4つの方法

1.技術を手頃な価格にする

– World Report on Hearing 2021の推奨事項の一つは、「すべてのレベルで質の高い聴覚医療を提供するための医療システムを強化すること」でした[3]。これを達成する方法の一つに、社会経済的地位の低い人々にとって補聴器をより手頃な価格にすることが挙げられます。

2.患者が生きる現実と価値を理解する

– 支援と教育は、彼らが直面している日々の課題(例えば、地理的条件や交通費の問題でアクセスが困難な恐れ)を念頭に置いて対処し、構築される必要があります。これはまた、患者が難聴を放置するリスクを理解できるよう、日々の生活の中にヘルスケアを組み込む医師の能力かもしれません。

これは、支援にあたり家族の同席がとても有用となる場であり、家族中心のケアの基本的な側面となります[10]。家族中心のケアについて、より詳しい情報はこちらの記事(英文)もご参照ください。

3.文化能力と文化の尊重を示す

– 医師が患者の価値観や意見を汲み取るために、異なる文化を理解し実践する文化能力を示し患者の文化の尊重を約束することは必須と言えます。

4.健康情報を適切に提供する

– 聴覚の保護とリハビリに関するリテラシーは、文化に配慮した方法で提供されるべきです。例えばニュージーランドでは、これらは地元のiwi(部族集団)、marae(儀式・集会の場)およびwhānau oraを通じて行います。

聴覚医療の格差を埋めるために

世界中のどこで実践するにしても、難聴リスクの軽減には聴覚保護の推進が欠かせません。フォナックに聴覚保護ソリューションであるPhonak Serenity Choise™ シリーズ(日本未導入)があることを誇りに思います。

また、リハビリテーションが必要な場合、特に医療・健康についてのリテラシーが低い可能性がある最も脆弱なコミュニティでは、聴覚ヘルスケアをスムーズに受けられるように改善することが最も重要です。

 

そのためには、私たちが提供するこれまでの健康維持活動を通じて確立した適切なサポートを、相手の文化に寄り添って実施することが必要です。

だから、難聴を放置することの影響について語ることを止めずに、私たちの支援が最も脆弱なコミュニティに届くようにしましょう。それが強固な家屋の4つの面 – Te Whare Tapa Wha – を維持することにつながります。

 

関連記事として「家族中心の聴覚ケアにおける文化能力の重要性(Patricia McCarthy博士)」(英文)をご紹介します。

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この記事は2021年7月6日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

著者:Charlotte Gordon

Charlotteはフォナック ニュージーランドのオーディオロジストです。彼女はフォナックに入る前は数年間臨床の場で働いていました。彼女は修士・名誉学士の課程において、アルツハイマー病患者の聴覚野の病理学的マーカーを調査するオークランド大学脳研究センターで調査を行いました。今年後半には、この分野の非常勤研究員として復帰する予定です。

◆関連記事◆
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人との付き合いが楽になる – フォナックにおける4つのコネクティビティ オプション-後編-

参考文献

[1] Manuel, A.R., Searchfield, G.D. & Curtis, E. (2021). Hearing loss and hearing service experiences among older Māori and whānau: a scoping review. New Zealand Medical Journal; 134(1535).

[2] Durie, M.H. (1985). A Maori perspective of health. Social Science & Medicine; 20(5): 483-6.

[3] Williams, L. (2019). Untreated severe-to-profound hearing loss and the cochlear implant situation: how policy and practice are disabling New Zealand society. New Zealand Med J; 132(1505): 73-8.

[4] World Health Organization (2021). World Report on Hearing. Geneva: World Health Organization; Contract No.: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.

[5] Hornsby, B.W.Y. (2013). The effects of hearing aid use on listening effort and mental fatigue associated with sustained speech processing demands. Ear and Hearing; 34(5): 523-34.

[6] Manchaiah, V.K.C. & Stephens, D. (2013). Perspectives on defining ‘hearing loss’ and its consequences. Hearing, Balance and Communication; 11(1): 6-16.

[7] Scarinci, N., Worrall, L. & Hickson, L. (2012). Factors associated with third-party disability in spouses of older people with hearing impairment. Ear and Hearing; 33(6): 698-708.

[8] Carr, K. (2020). 20Q: Consumer insights on hearing aids, PSAPS, OTC devices, and more from MarkeTrak 10. AudiologyOnline; 26646.

[9] Department of Māori Affairs (1989). The Review Team: Whakarongo mai. Report to the Minister of Māori Affairs. In: Affairs TRTWM, editor. Wellington (NZ).

[10] Karmali, K., Grobovsky, L., Levy, J. & Keatings, M. (2011). Enhancing cultural competence for improved access to quality care. Healthcare Quarterly; 14 Spec No 3:52-7.

また、日本語訳にあたり以下の文献を参考にさせていただきました。

村上雅昭(2014) 「New Zealand-Maori族の精神保健―“臨床民族誌(clinical ethnography)”的実践―」 明治学院大学社会学・社会福祉学研究 = The Meiji Gakuin sociology and social welfare review, 2014, 巻142, ページ31-52,

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