「全方位からのことばの明瞭性」機能は、騒音下での「考える力」をサポートできるのか?【後編】
新たなエビデンスにより、インフィニオ スフィア 搭載の機能「全方位からのことばの明瞭性」が、単に「聞こえ」を改善するだけでなく、日常のコミュニケーションにおいて、より集中し、積極的に関われるようになる手助けとなる可能性があることが示されました。
前編では、日常の聞き取りに関与する認知機能 ―処理速度(processing speed)、干渉抑制(interference control)、ワーキングメモリ(working memory)― について紹介しました。
今回は、フォナックの先進的な騒音抑制機能「全方位からのことばの明瞭性(以下、SSC)」が、騒音下での聞き取りに必要な認知的労力を軽減することで、これらの機能をサポートできるかどうかを調べた最新の研究をご紹介します。
SSCは、ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を用いて、騒がしい環境の中から音声を抽出するように訓練されています。
研究デザイン:SSCの効果を特定する
研究には、軽度〜中等度の感音難聴を持つ補聴器の経験者18名が参加しました。全員がオーデオ インフィニオ スフィアの90クラスを装用し、次の3つのプログラム設定でテストが実施されました:
1.リアルイヤーサウンド(無指向性だが、耳介本来の聞こえ方を模範) – 騒音抑制なし
2.固定指向性– 指向性マイクのみ
3. 固定指向性+SSC – 指向性マイクに加えてSSCの騒音抑制を有効化
この設定により、SSC単独の効果を指向性マイクの効果と切り離して分析できるようにしました。
課題①:干渉抑制と処理速度の測定
参加者は騒がしい環境下で、単語の意味に惑わされずに、声の高さ(高音か低音か)を素早く判断する課題に取り組みました。たとえば、「高い」という単語が低音の声で発話された場合、それを「低音」と判断します。
この課題では、誤解を招く手がかりを抑制し、音そのものの特徴に注意を向ける必要があります。つまり、認知的抑制力と素早い意思決定能力が問われるのです(図1参照)。
図1:課題の例。被験者は声の高さを素早く判別し、「高音」または「低音」のボタンを押します。
※ なお、2名の被験者は偶然レベル(正答率50%)での回答しかできなかったため、分析から除外されました。
主な結果: 参加者は、SSCプログラムを使用している時、他の2つのプログラム(指向性のみ、騒音抑制なし)と比べて、矛盾する刺激に対して明らかに素早く反応しました。これは、SSCが騒音下における認知的処理のスピードと正確性を向上させる可能性を示しています。 |
課題②:騒音下でのワーキングメモリ
2つ目の課題では、騒音環境下で数字列(例:5–2–8)を聞き、それを逆順に繰り返す課題を行いました。正解するたびに数字列は長くなり、同じ長さの列で2回失敗するまで続けられました(図2参照)。
図2:数字を逆順に入力する課題の実施例。
スコアが高いほど、「注意をそらす情報を排除しながら、情報を記憶・処理する能力」が高いとされます。
主な結果: SSCプログラムを使用した場合、参加者はより長い数字列を正確に逆唱することができました。これは、騒音下でのワーキングメモリが向上したことを示しています。 |
これらが日常生活へ与える影響
以上の結果から、SSCは単に「聞こえのクリアさ」だけでなく、「思考のクリアさ」にも貢献する可能性があると示唆されます。
SSCは、処理速度、干渉抑制、ワーキングメモリといった認知的プロセスをサポートすることで、補聴器ユーザーが以下のような場面でもっと楽に対応できるようになるかもしれません:
-
テンポの速い会話についていく
-
口頭での指示を覚える
-
騒がしい環境での複雑な作業や段取りをこなす
つまり、SSCは「聞くこと」の負担を軽減し、日常会話での集中力や関わりを高めてくれる可能性があるのです。
▶この記事で取り上げた研究の詳細は、こちら
※本記事は、Phonak Audiology Blog に掲載された記事を翻訳したものです。
[参考リンク]
進化したメインチップERA™ | きこえのブログ by フォナック
・フォナック補聴器ウェブサイト:フォナック オーデオ インフィニオ スフィア
・一般のお客様向けウェブサイト:PHONAKブランドサイト