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新型コロナウイルス感染症、難聴およびメンタルヘルスについて

 

 本記事では、新型コロナウイルスの感染拡大時の社会的孤立による難聴、孤独、メンタルヘルス、認知機能に対する影響についてご紹介いたします。

フォナックは、認知と難聴分野の研究に力を注いているJenna Littlejohn博士をインタビューし、内容を下記の通りにまとめました。博士には、新型コロナウイルス感染症が高齢者、特に高齢難聴者のメンタルヘルスと認知機能にどのような影響を与えているかについて詳しく説明していただきました。

フォナックは、聴覚専門家にとって人々のウェルビーイングは重要なトピックであると考えております。そのため、ぜひLittlejohn博士の専門知識と研究成果を皆さまにご紹介したいと考えます。

インタビュー

【フォナック】 Littlejohn博士、本日は貴重なお時間をありがとうございます。まず、コロナ禍が私たち、特に難聴者のウェルビーイングにどのような影響を与えているかについて、お聞かせいただけますか?

【Littlejohn博士】 新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの社会生活や暮らしは大きく変化しています。世界中で様々なソーシャルディスタンスの方針が発令され、社会的活動のコミュニケーションに変化が生じています。

難聴者は、様々な理由でそれに影響される可能性があります。例えば、定期的な聴覚検査を受けなくなったり、病院の予約が延期になったりキャンセルされたりすることがあります。また、マスクの着用が必要になると口の動きが見えないことで会話の明瞭さに影響を与え*1、新型コロナウイルスへの感染そのものが聴力や耳鳴りに影響を与える可能性もあります*2

新型コロナウイルスの感染拡大は、高齢者の健康や社会的・感情的ウェルビーイングに短期的にも長期的にも影響を与える可能性があります。難聴者に対してはその影響がさらに強くなる可能性もあります。

 

【フォナック】 日常生活にどのような影響があるのかについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

【Littlejohn博士】 例えばイギリスでは、70歳以上の「臨床的に脆弱」あるいは病気による重症化のリスクがあると判断された人たちに「保護(ソーシャルディスタンスのガイドラインを厳格に守り、可能な限り家から出ないこと)」が求められました。イギリスでは70歳以上の人の半数は一人暮らしであり*3、家庭外のコミュニケーションに依存していることが分かっています。電話、電子メール、ビデオ通話といった技術によって、幅広い社会的なつながりを手助けすることができますが、70歳以上の人の70%以上が難聴であり*4、これらの代替手段を用いても有意義な会話をすることが困難であるという可能性があります。

 

【フォナック】 難聴者が特に悪影響を受けるのは、なぜでしょうか?

【Littlejohn博士】 難聴がうつ病*5や孤立、孤独の増加につながること*6はすでにご存知かと思います。難聴の高齢者にとって電話の使用は困難であり、ビデオ通話の利用も同様に音の歪みや遅れがあるため難しいです。そのため、コロナウイルスのまん延による悪影響はもっともなことだと考えられます。

過去の研究では、難聴者は認知障害や認知症の発症リスクが高いことも示されています*7。このリスク増加の原因はまだ不明ですが、先述の難聴が与える心理社会的な影響が間接的にリスクを高めているという説があります。例えば、難聴者は孤立感や孤独感を感じやすく、それが認知症発症のリスクとなる可能性があります*8,9

したがって、ソーシャルディスタンスの確保を強いることはコロナ禍の難聴高齢者のメンタルヘルス、孤独、孤立に有害な影響を与え、その後の認知症発症リスクにも長期的な影響を与える可能性があります。

 

【フォナック】 このトピックにおける最近の研究成果を教えていただけますか?

【Littlejohn博士】 実は2020年5月から、オンラインのアンケート調査を初めました。70歳以上のボランティアに、難聴、自分の社会的交流のレベル、孤独感、不安、うつ、認知機能に関する質問などを答えてもらいました。そして、アンケートのスコアと自己申告の聴力レベルを比較し、聴力レベルによる違いを検討しました。また、コロナ禍の影響が長期化するかどうかを確認するため、参加者の追跡調査を12週間後に実施しました。

このオンライン調査では、ロックダウン中に経験したポジティブなこと、ネガティブなこと、困難なことなどを詳細に記述する機会を設けました。これは、結果指標に考えられる原因を探すためだけでなく、今後の社会性と精神的健康を改善するための戦略として活用することも考えております。

 

【フォナック】 参加者からどのような報告がありましたか?また、結果はいかがでしたか?

【Littlejohn博士】 予備調査から、新型コロナウイルスの感染拡大が難聴と孤独感、うつ病、認知機能障害との間に有意な関係があることが示唆されました。また、聴力低下が進んだ人は、ソーシャルディスタンスを確保する間に記憶力が低下したと報告する割合が増加しました。現在は先ほど紹介しました追跡調査の結果を分析し、その影響が長期に及ぶ可能性があるかどうかを観察しているところです。

 

【フォナック】 これらの結果は、コロナ禍における多くの高齢者の負担の原因を示しています。ソーシャルディスタンスが必要な中、聴覚専門家へのアドバイスとして、ユーザーが自分自身のウェルビーイングを維持してもらうための重要なポイントを3つ挙げるとしたら何でしょうか

【Littlejohn博士】

  1. 難聴があってもコミュニケーションを維持できるよう、(遠隔でも)聴覚ケアを継続的に提供する必要があります。
  2. ユーザーに変わったことがないか継続的に様子を伺うとよいでしょう。必要に応じて社会生活やメンタルヘルスについて尋ね、主治医に紹介しましょう。
  3. 組織の公式webページやSNSを通じて、ユーザーの社会的繋がりとメンタルヘルス改善のためのアドバイスを提供することを検討しましょう。

 

今回、ウェルビーイングに関する見識を教えていただいたLittlejohn博士に深く感謝いたします。研究の追跡調査の結果に関しても、引き続きフォナック オーディオロジー ブログでご紹介する予定です。

 

本トピックについて詳しく知りたい方は、Hearing Research Journalの予備調査結果報告書(現在準備中)をお読みいただくか、難聴、孤独、孤立に関する専用のポッドキャスト(英語音声)をお聞きください。

 

フォナックのWell-Hearing is Well-Beingについてもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。

 

この記事は、2020年11月24日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

 

著者:Charlotte Vercammen(ソノヴァ 聴覚研究員)

Charlotteはベルギーのルーヴェン大学で言語聴覚学を学びました。2018年にソノヴァに入社する前は、ルーヴェン大学医学部でティーチングアシスタントとして働きながら博士号を取得しました。耳鼻咽喉科の研究グループで、認知と聴覚の相互作用を調査する認知聴覚科学および両耳聴覚の電気生理学的測定に焦点を当てた研究を行いました。

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参考文献

  1. Chodosh, J., Weinstein, B.E., & Blustein, J. (2020). Face masks can be devastating for people with hearing loss. BMJ; 370, m2683.
  2. Munro, K.J., et al., (2020). Persistent self-reported changes in hearing and tinnitus in post-hospitalisation COVID-19 cases. International Journal of Audiology, 1-2.
  3. Age UK (2019). Later life in the United Kingdom 2019. Retreived from https://www.ageuk.org.uk/globalassets/age-uk/documents/reports-and-publications/later_life_uk_factsheet.pdf.
  4. Goman, A.M. & Lin, F.R. (2016). Prevalence of Hearing Loss by Severity in the United States. American Journal of Public Health, 106(10), 1820-2.
  5. Mener, D.J., et al., (2013). Hearing loss and depression in older adults. Journal of the American Geriatrics Society, 61(9), 1627-1629.
  6. Mick, P., Kawachi, I., & Lin, F.R. (2014). The association between hearing loss and social isolation in older adults. Otolaryngology–Head and Neck Surgery, 150(3), 378-384.
  7. Livingston, G., et al. (2020). Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet. 396(10248), 413-446.
  8. Fratiglioni, L., et al., (2000). Influence of social network on occurrence of dementia: A community-based longitudinal study. The Lancet, 355(9212), 1315-1319.
  9. Wilson, R.S., et al. (2007). Loneliness and risk of Alzheimer disease. Archives of General Psychiatry, 64(2), 234-240.

 

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