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ロジャー – 音よ耳に届け! -前編-

ニュージーランドのセーリングチームとオークランドのフィルハーモニー管弦楽団、この二者にある共通点とは何だと思いますか?

答えは、「どちらも難聴の有無に関わらずアクセシビリティを提供し、可能性を広げるためにフォナックのロジャーを使用していること」です!

ご存知の通り、難聴を抱える人たちにとって騒音下で話を聞いたり、離れた場所からの音を聞いたりすることは非常に困難です。
そして、補聴器の指向性マイクロホンや、ロジャーのように音声をワイヤレスで送信するシステムが彼らにメリットをもたらすこともよく知られています*1, *2

また、難聴以外の障害を抱える人たちも聴覚に何らかの問題を抱えている可能性があることが認識されつつあります。例えば、自閉症を抱える方は大きな音に過敏に反応する *3ことや、聴覚情報処理障害(APD)は聴力レベルが正常であるにもかかわらず、騒音下での聞き取りが困難になる *4などのケースがあります。健聴者にとっても、背景雑音が大きい、もしくは離れた場所からの音声を聞くことは、聞き取りやコミュニケーションが困難になることが研究で示されました。これらの先行研究に基づいて、本ブログ記事ではフォナックがニュージーランドで行った2つのプロジェクト、聴覚アクセシビリティを向上するためにロジャーを使用した例をご紹介いたします。

プロジェクト1. 勝利はロジャーとともに

フォナックは2003年から公式に、エミレーツ・チーム・ニュージーランドのセーリングチームに水上通信機器を提供しています。ヨットレースは風や帆によって起こる騒音に晒される、非常に厳しい聴取環境下で行い、言うまでもなくすべての機器に防水性が求められます(不運にも転覆してしまった場合はなおさらです!)。初期の船上システムは、船の周りに誘導ループを設置することが一般的で、船長から船員への一方通行の通信を可能にしていました。防水性を高めるために、船員は時計の構成部品を流用したカスタムイヤーピースを装着していました。最近では、ヨットのフォイリングとその驚異的な技術がもたらす高速化により進化した帆走技術のように、ますます増大する風切り音、そしてボートデザインの進化により、クルーがボートの両側を占めることで視覚的な手がかりが得られなくなったことによる双方向通信の必要性を満たすべく、船上の通信技術も進歩してきました(図1左)。

図1:左 – フォイリング飛行をするエミレーツ チーム ニュージーランドのボート。
右 –ロジャーの技術をベースにした水上通信機器。

※この画像はエミレーツ・チーム・ニュージーランドの許可を得て使用しています。

このような雑音が多い環境においては、まさにロジャーのダイナミックな技術が活躍する場所です。エミレーツ・チーム・ニュージーランドの2021年アメリカズカップ防衛戦では、レーシングボート上に「Roger studio」と名付けたネットワークを構築しました。双方向通信を必要とする一部の選手(船長&船員両方を含む)は他社製の防水型双方向全二重通信システム(メディア向けに船外にも送信が可能)を装着しています。これらをフォナックのロジャー ベースステーション(スタジオ・演劇用の据え置き型ロジャー送信機)と複数のロジャー リピーターによってワイヤレスで接続し、船員は防水バッグに収納したロジャー マイリンクと防水ヘッドホンを用いて、全ての船員が船長からの指示をはっきりと聞き取ることができます。さて、その結果はどうだったでしょうか?

「私たちの航行は極めて厳しい環境です。激しい風切り音や水しぶきに晒されながらも迅速な対応が求められます。フォナックのロジャーをベースにした船上通信システムは、これらの課題を克服し、チームをアメリカズカップの防衛に導いた鍵と言えるでしょう。」

— Ray Daviesさん, エミレーツ・チーム・ニュージーランド

 

フォナックがエミレーツ・チーム・ニュージーランドに水上通信機器を提供開始して以来、彼らはアメリカズカップで三度、最近では2017年のバミューダ開催において優勝を果たしました(本活動の通信システムについてのビデオはこちらから)。私たちは、2021年の防衛戦においてもこのサポートを継続できたことを誇りに思うとともに、彼らが再び「Auld Mug」を掲げることを願っています。

フォナック ロジャーの詳細については、フォナックの専門家のかた向けホームページphonakpro.comをご覧ください。

 

著者:David James Crowhen

Davidはフォナックで10年以上働いています。 音楽への興味と人の助けになりたいという気持ちが彼を自然と聴覚学に導き、1999年、Davidはニュージーランドにあるオークランド大学の聴覚学の修士課程を卒業しました。彼は公共および民間、そしてニュージーランドと海外の両方で10年間の臨床経験があります。Davidは補聴器と無線通信の高度な技術に高い関心を持っており、ユーザーと家族のニーズに基づいてこれらを選択し、臨床現場におけるこれらの機能の検証と評価をサポートしています。

 

この記事は2021年3月11日にPhonak Audiology Blogに掲載された記事を翻訳したものです。

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参考文献

1.Picou, E. M., Aspell., E. & Ricketts, T. A. (2014). Potential benefits and limitations of three types of directional processing in hearing aids. Ear & Hearing; 35(3): 339-352.

2.Thibodeau, L. (2014). Comparison of Speech Recognition with Adaptive Digital and FM Wireless Technology by Listeners who use Hearing Aids. American Journal of Audiology, 23, 201-210

3.James, P. & Range., G. (2017). Reduced physiologic stress in children with autism using Roger™ technology. Phonak Field Study News. Retrieved from https://www.phonakpro.com, accessed March 10, 2021.

4.Musiek, F. & Chermak, G. (2013 ). Handbook of Central Auditory Processing Disorder. 2nd edition (Vol 1). San Diego: Plural Publishing.

5.Vercammen C, Ferguson M, Kramer SE, et al. (2020). Well-hearing is well-being. Hearing Review; 27(3): 18-22.

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